声優は台本を持ちながら演技をしても構わないので、セリフを完全に暗記する必要性は低いです。(暗記するほど読み込むことは必要かもしれませんが)
そのため初心者がやりがちなことが、セリフをただ読んでしまうことになりがちです。
もっと突っ込んだ言い方をすると、書いてあるものをそれっぽく読むだけになってしまいがちです。

え?でもセリフは「読むもの」じゃないの?
だって台本に書いてあるんだから……
もちろんそうなのですが、この「読む」という言葉が、ちょっとクセモノなのです。
セリフは「吐く」

プロもよく口にする言葉ですが、セリフは「吐く」という表現をします。
吐くという言葉は、「弱音を吐く」「心情を吐露する」というときに使いますよね。
刑事ドラマなどで「いい加減に吐いてちまえ!」と言ったりもします。(笑)
ここでいう吐くとは、胸の内にある本当のことを言うということですよね。さらに別の意味で、(汚い話で申し訳ないですが)一度食べたものを戻すことも吐くと言います。
つまり、セリフも一度食べるんです。そして消化して自分のものにして、それから吐くんです。それがセリフを読むということなんです。
セリフを自分のものにするとは

例えばスイーツを食べて、「おいしい~!」というセリフがあるとします。
台本に書かれているのはこれだけです。
キャラAがパフェを食べ、目を潤ませる。 A「おいしい~!」
このセリフを与えられたとき、多くの初心者が「おいしい~!」の部分をどう言うかで頭がいっぱいになります。
セリフの前にある部分を飛ばしてはいけません。セリフを読む前に、まずパフェを食べて、目を潤ませるところからやってください。
キャラが行っている所作のひとつひとつを丁寧にイメージしながら、想像の中で食べてください。
パフェをスプーンですくって、ゆっくり口に運び、パクッと食べる。
アイスの冷たさや、クリームの甘みや、フルーツの酸味が口に広がる。
心に幸福感が広がり、顔が緩み、ほころんだ口から思わず言葉が……!
「おいしい~!」
どうでしょうか?言い方だけを考えるより、よほど良いセリフになるはずです。
イメージが明確であるほど、言葉は自然に出てきます。なぜなら、それはもはや台本に書かれているセリフではなく、あなた自身の言葉になったからです。
がセリフを吐くということなんです。
役作りとして一番良い方法は、このセリフをもらってから発表まで時間があるなら、実際にパフェを食べにいくことです。
実体験に勝る役作りはありません。本番では無理に想像せず、経験したことをただ思い出して再現すればいいだけなんですから。
外国、宇宙、異世界…。想像できないものはない
パフェは食べようと思えばいつでも食べられます。学生の役なども想像はしやすいでしょう。
では、こんな役とセリフをもらった場合、どうやってセリフを吐けばいいでしょうか。
あなたはとある村の若者です。 あなたが村を離れている間、魔物が襲ってきて村は滅ぼされてしまいました。 復讐に燃えるあなたは王国の騎士団に入り、剣の実力を磨きます。 修行の中で復讐よりも皆を守ることの大事さに気づき、人間としても成長していきます。 そうしてついに魔王と対決することになり、次のセリフを言います。 「世界を守るために、お前を倒す!」
現実ではこんなことはありえません。
まず魔物がいない。
そして魔王もいない。
この国に騎士団はない。
剣なんか持ってたら銃刀法違反。
これを実際に体験できる人はいないですよね。

ですが「近い体験」は誰もがしているはずです。
魔物に村を襲われたことはないと思いますが、理不尽でどうしようもない目に会ったことは誰でもあるはず。
例えば
- 子供のころ、自分が楽しみにとっておいたプリンを家族に食べられた。
- 砂場で丹精込めてつくったお城に、ボールが飛んできて一瞬で壊れた。
- 大事に描いてた絵を、単なる落書きだと思われて捨てられた。
こんな程度のことならだれでもあると思うのです。
「住んでいる村が滅ぼされる」にくらべたらあまりに軽い出来事ですが、本質はどちらも同じ「理不尽な目に会う」ですよね。
ではさっきの設定の本質を抜き出してみましょう。どれも、誰もが経験していることです。
あなたはとある村の若者。(普通に社会で生きている) あなたが村を離れている間、(自分の力が及ばないタイミング) 魔物が襲ってきて村は滅ぼされてしまいました。(理不尽な出来事) 復讐に燃えるあなたは王国の騎士団に入り、剣の実力を磨きます。(目的達成のために努力する) 修行の中で復讐よりも皆を守ることの大事さに気づき、人間としても成長していきます。(努力の過程で気づきを得る) 「世界を守るために、お前を倒す!」(成長した自分としての宣言)
どうでしょうか。本質の部分は誰にでも経験があるものです。
それぞれが繋がっていなくても構いません。本質が合っていれば次のようなものでも良いです。
ふつうに暮らしてて、 コンビニに出かけている間に、 兄弟にプリンを食べられ、 テストの点を上げるために塾に通い、 陸上部でトレーニングを頑張り、 就職活動の面接で「御社を希望します!」と叫ぶ。
これはつなげてみるとチグハグですが、ひとつひとつのことは誰でも経験できることですよね。
このひとつひとつの体験で覚えている感情をベースにしたら、あとはその感情を膨らませれば良いのです。
まとめ
台本をもらうと「これが自分が読むセリフなんだ!」と嬉しくなってしまうのは、初心者もプロも同じです。
自分のセリフというのはとても大事で愛おしく、誇らしいものですから。
だからこそ、書かれてある言葉だけを読んでしまうのは非常にもったいないです。
演じることが本当に楽しいと感じる瞬間は、セリフを上手く言えたときではなく、セリフを完全に自分のものに出来た瞬間です。
みなさんも台本をモリモリ食べて、たくさんセリフを吐きだしてくださいね。

